銀座の高級クラブ

さてさて、今回のお題は銀座の高級クラブである。日本夜の社交界で頂点に君臨する誘惑の桃源郷だ。そのママともなれば、女性偏差値の最高峰を誇り、お店を舞台に華やかな夢芝居を巧みに演出する。集うホステス陣も全国津々補々から馳せ参じる女優の卵や売れっ子モデル、美を競う大会の常勝集団である。店先に会員制のプレートがさり気なく張られ一見様はお断りが常識である。その重厚な扉を開ければ、そつの無い黒服がいらっしゃいではなく、お待ちしておりました。社長、先生、びびんちょ会長と深々と頭を下げる。すぐに気付いたママが着物の裾を気にしつつ、既に勝負あった先客をほったらかして、全力疾走で新客を迎える。いつも通り、僅か五分程度の歓迎儀式である。そのお客が席に着けばチーママと係のホステスがお約束のおねだりだ。あれが飲みたい、これお願いなんて野暮な事は言わない。沈黙が三分程度続けば、お客が気にして、何か飲んでよ。待ってました。破顔一笑。黒服に目配せでアレお願い、承知しました。このやり取りは吉野屋の牛丼よりも早く進む。かくして、あっという間に時間は過ぎてチャージ爆発の請求書が作成される頃、客もこのまま帰るのではもの足りない、そこで勝負に出る。しかし、紳士たる者は遊ばない、なんて品のない言葉は使わない。言えない。どうかな、ダーメ。口説きは御法度。手触りで御免遊ばせ、また今度。この光景を遠くの席から見ていたママが、そろそろお帰りお世話様。今度は、次回来店のお約束を固めるための壮大な送別式の挙行だ。いらっしゃいませはお顔に、ありがとうございますは、去りゆくお客の踵(かかと)に。接客商売のイロハである。後ろを振り返れば、まだあの大ママが頭を下げている。慌ててお客がママより頭を低くする。もはや、高額とボッタクリの差は理解不能で、海干山千のママに今夜も完敗だ。鑑主が説く。商売は唱売、カステラ1番、電話は2番、顔を見たけりゃ金持って来い。銀座の高級クラブは高額商売のお手本であり続ける。

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