シャバの世界を生きる

いつか死ぬ。必ず。この死の認識と死後世界の無知
から来る恐怖に人々の多くは、おののき、震え宗教
に安寧を求め、すがり、絶対的無知の克服を図る。
一つの現存宗教の扉を叩く。スミマセーン。直ぐ様
リーダーを先頭に、お仕えのスタッフ数人が迷い人
を奥の部屋に招き入れてくれる。テーブルの椅子に
座るや否や、ようこそ、お悩み様、いらっしゃい。
話すより先に、見えます。見えています。あなたの
毎日が。不安なんでしょう。よくわかります。で、
どうしましょうか。テーブルの上で綺麗なメニュー
が開かれる。あなたは神を信じますか。はい。この
答えが、神様世界への旅立ちの決意とみなされる。
まず、入門セミナーがお勧めです。この世とあの世
の仕組み、そして幸福獲得をめざすプロセスと日常
生活の規律指導が中心となります。宜しいでしょう
か、あのー、まだ、入信するかどうか決めていない
のですが。エーー、あなたはこの場所に神に導かれ
て来られたのですよ、今すぐに決意されなければ、
今後永遠に救われません。神のお怒りに触れてしま
います。リーダーの迫力に圧倒されつつ、これなら
良しと咄嗟に逃げ口上が頭に浮かんだ。実は一私。
何ですか。コロナにかかってしまい、おととい退院
したばかりなんですが。まー何て事でしょう、なぜ
早くに言わないのよ。リーダーとスタッフ一同は、
テーブルから2メートル程後ずさりした。しかし、
リーダーは、よっこらしょと衝立を置き、マスクを
整え直し威厳ある態度で鷹揚に構え、本日はあなた
の体調を考え、入信書類一式と振込書、死後世界の
大体の説明書をお渡しします。大体ですか。そうで
すよ、一度に説明してしまったら、お商売になら
いでしょうが。いや、ごめんなさい、それは身内だ
けの話なので、聞かなかった事にしてね。正答は、
あなたの魂の成長に合わせて教祖様がご指導して下
さると言う事なのよ。それと、今度教場に来る時は
陰性証明書を先に見せてね、なるべく早くに振り込
んで頂戴よ。別れ間際、スタッフの一人が私の背に
消毒アルコールを長く強く吹き掛けて、扉をロック
した。かくして、世間で一番人気の某団体への訪問
を終えた。帰宅して、どっこいしょと椅子にすわり
例の説明書にしっかり目を通した。色合いと手触り
が素晴らしい。内容も分かりやすい。入信しようか
迷って数日が経った頃、あのリーダーからメールが
届いた。入信の催促だ。天国への階段を一緒に昇り
ましょうねにスマイルマークだ。翌日、街角で近く
に住む和尚と出会った。和尚様、極楽って在るんで
しょうか。死ぬのが怖いんです。死んだらお終い。
天国が在ったとしても退屈ですぐにシャバの世界に
戻りたくなるぜ。ヒリヒリ感こそ生きる楽しみだ。

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