ロシア-ウクライナ紛争私見(6)
ゼレンスキーよ、ひざまづけ!命乞いをせよ!、と
プーチンの声が大統領の会議室に一際強く響いた。
軍の最高幹部らを前に、これは戦争ではない。愚か
な民、国家を覚醒させるための思いやりなんだ、と
言い放った。いいか、我が国の軍事力の偉大さを、
美しく見せつけ、ロシアこそが世界一の王国である
誇りを全ての民に知らしめよ。一人の幹部が震えな
がら、声を絞って問い返す。戦争ではない。ダー。
これは、特別軍事作戦だ。戦勝記念日を輝かせる、
[軍事パレード]だ。勝負は関係ない。結果は出て
いる。安心しろ。1週間でショーは終わらせる。
そうだ。オデッサの港に旗艦[モスクワ]を留めて
海さえも黙らせよ!ダー、ダー、ダー。その声を聴
き終えて、プーチンは、肩を左右に揺らしながら、
両手を小刻みに震わせて奥の執務室に消え入った。
分厚い扉がカチットの音だけを残して閉まった。
こうして、ロシア・ウクライナ紛争劇が開幕した。
アメリカと友好国家は、既に本紛争の動きを掴み、
世界各国にロシア侵攻劇の始まりを予告し、詳細な
説明とその無意味さを連日報道し続けた。そして、
予告編の通り、本編が始まった。ロシアもその筋書
きを忠実になぞった展開に努力した。ウクライナへ
続く一本道を旧式の戦車が几帳面に一列縦走で行進
する。そこに待ってましたと対戦車砲ジャベリンが
火を吹く。戦車は一瞬で破壊される。ウクライナを
守護する、正義の砲撃だ。これでも喰らえ、やった
ぞ、演習通り命中した。一台の戦車から二十歳に届
かぬ様な兵士が手を挙げて、救いを求めて近寄って
来る。頼む。撃たないで来れ。お前がやってる事を
分かっているのか、僕は、ただ戦車に乗って前進し
て行けば、多くの国民に歓迎される。首都キエフで
いい思い出を作って帰って来い。そう言われて上官
の指示に従っただけなんだよ。この兵士は、泣きな
がら、ママと話をさせてくれと哀願し、ウクライナ
の善意が彼を保護し、安堵に浸った。この状況は、
世界に同時配信された。結局、戦車のドライバーは
戦争経験の無いエキストラ集団である事実が、判明
した。かくの通り、本紛争はプーチンの思惑や企図
とは大きく違い、一連の報道が伝える様にシナリオ
なき泥沼のドラマと化してしまった。進むも、戻る
も地獄絵の様相だ。さる日、ロシア正教の教会堂に
何とプーチンが現れた。そして、キリストの前に歩
み出てひざまづき、この世の平和を祈ったと聞く。
オイオイ、何をやってる。怪訝さを解く文字が壁面
に刻まれている。一人は万人の為に、万人は一人の
為に。ダー、この正教は教会型の生協だったのか。
そうか、プーチンは平和セールに招待されたんだ。
なら、今年の総会は荒れるぞ。国連も生協も。