箱、箱、オハコ
さあー、今日も一日が始まる。日本国民勤労の開始
だ。いつも通りの道をスタコラとバス停まで向かい
なじみの顔ぶれを見つつ、バスの到着を待つ。昨晩
覗いたスナックの新人女子の顔を思い出しニヤツイ
テいたら、程なく駅までのバスが10人位の男女を
乗せて出発だ。約15分で、駅に着いた。これから
が一勝負だ。ざっと、人の並びを見て前から3両目
の列に並んだ。相変わらずの混雑の中、精一杯空間
確保に努める。隣の女子に体が強く触れたら一大事
である。ヤメテ下さいの声は人生終焉のお告げだ。
下車し、10分程度歩けば本社に着ける。背後から
おはようございます、と柔らかい声を受ける。後輩
女子の笑顔に背筋を伸ばして、イイネと気持ちを揺
らしてエレベーターで一緒に40階へ。オハヨーと
勢いよく扉をあける。一斉に挨拶が響く、最高だ。
独身38歳、韓国スターには負けても、一応シュッ
とした長身で男前の範疇に入る。学歴も東京六大学
出身で順調に行けばそこそこの出世は予想される。
窓際に近い課長の席につき始業前に肩の力をフーッ
と抜いて沈思黙考した。何故か、頭にティッシュの
箱が浮かんできた。何だろうと思いつつ、ボックス
なる言葉が頭によぎってきた。そうだな。よくよく
日常を思えば、マンションという箱を出て、バスと
電車の箱を乗り継ぎ、会社なる箱に着き、オフィス
の箱に今座っている。定年迄の後30年間、いわば
この箱暮らしがズーット続くのか。惜しまれつつを
望んでも確実にお払い箱でお疲れ様でサヨナラだ。
経済的余裕が恐らくない状態で老いさらばえて、病
いの床に伏し遂にはこの五体を棺桶の箱に沈める。
人のお見送りを受けるかどうかは分からずとも焼却
処分は間違いない。最後は、墓じまいが心配される
が御先祖様のお墓に運良く入れるかもだ。朝っぱら
から何を考えているのかと問われたら、箱、箱、箱
の意味と価値だ。真理は偶然に見いだされる。あの
ニュートン大先生もリンゴの木から落ちるのを見て
万有引力の法則を発見したではないか。ひょっとし
たら、箱に何か重要な意味があるかも知れないぞ。
いや、あるに違いない。箱は空間を切り取っている
世界だ。空間の凝縮化。開けてビックリ玉手箱だ。
空間の良し悪しが人生を決するのか。あれこれ考え
ていると、例の女子が声をかけてきた。お客さまが
おこしです。新商品のお箱について相談したいとの
事です。分かった。会議室にお通しして。あの業者
は曲者だから十分気をつけないと。ヘタを打って、
ブタ箱行きはごめん被りたい。ところで、今晩時間
ある。イイデスヨ。行きつけのスナックでオハコの
歌でも聞いてほしいな。新人女子にも再会希望だ。