透明商品とマルクス
資本主義の定義は、一定の資金を原資として、商品
の生産、販売等の行為により、利益や利潤を獲得し
原資を増加させる経済構造である。この資本主義で
元手を増やすには、商売上手か否かが重要である。
中でも商品化の巧みさが中心課題となる。本来は、
商品でなかった物まで販売用の品物に昇華させる。
現在では、水や空気さえも商品化される。ただ同然
や形無き物が金に変わるなら、笑いが止まらない。
現代は経済のソフト化が顕著であると評されるが、
その意味するところは無形商品、透明商品の増加で
あり、もはや氾濫状態である。具体的には、情報、
企画、アイデア、デザイン、技術、各種ノウハウが
商品価値となる展開を言う。勿論、透明商品として
各市場に安定供給する場合は可視化、即ち見える化
の作業が必要であるが、各種車両、冷蔵庫やテレビ
を製造するといった生産ラインは不要である。この
点、マルクスが資本論において主張した生産手段を
保有する資本家が労働価値を搾取し、現場労働者が
被支配状況から開放される事はない、とする主張が
妥当しないのではないか、との疑問がある。しかし
ながら、いわゆる上記ノウハウビジネスであっても
相応の研究開発投資が必要であり、ケース次第では
莫大な資本投入が求められる。つまり、アイデアや
発想のみでは、単なる思いつきに終わり市場参入は
不可となる。よって、商品として社会的に認知され
るには、やはり人の労働、物資、資金が生産活動の
基礎的インフラである事は不変である。故に経済の
ソフト化が進んでも資本家による労働者の支配状況
は継続する。ただし、知財商品は極めて人知の探究
化をめざすところ、画一的単純労働は減少するため
大規模生産ラインにおける労働者の機械化をもって
資本家の労働価値収奪という一元的なマルクス思考
は、静かに影をひそめる。この経済ソフト化が資本
主義を高度化させ、従来的な資本家と労働者の対立
関係に変わって、労働者の孤立化が問題視されてい
る。これまでは労働組合の連帯支援やケアを受けて
労働問題はある程度対処されてきたが、労働者個人
の価値観の多様性により、基本的に一人解決主義を
選択する傾向が強く、自閉的な生活者となる事例が
増加していると判断する。ロシアウクライナ戦争の
現況は、政治のハード化と経済のソフト化である。
闘いながらも商売は継続する。先進各国が実利主義
に傾き価値観が揺らぐ現況で、ミクロ的存在の個人
が日々の生活に生き甲斐を見いだすのが困難な時代
である。マルクスよりも宗教に救いを求め宗教団体
の加護救済を望む人が増える。慈愛の集積があれば
人はためらいなく手にする。慈愛の商品化である。